ある日、事務所に鳴り響くトゥルルルル!ガシャッと受話器を取ると、少し早口で、焦ったような声だった。
「子どもが…マジックでフローリングに落書きしちゃって…。直せますか?」
詳しく聞くと、それはもうリビングの床一面に広がるアート作品らしい。
虹、動物、意味不明の線…画伯は満足げな笑顔だろうが、親御さんは冷や汗だろうな。
私は笑顔になりつつも、「状況を見なきゃですが、大丈夫、たぶん直せます」と答える。
内心では“さて、今回はどんな絵が描かれたんだろう”と創造しながら、現場確認の段取りを始めた。
床材次第で運命が変わる
しかし、ここからが本題。
フローリングの素材によって、落書き修正の難易度は大きく変わる。
コーティングのあるフローリングなら比較的安心だが、無垢材もしくは、無垢材のオイル仕上げで、手入れがされていないとインクや油分が内部まで染み込み、削らないと取れないこともある。
つまり、マジックでも“アルコールなどによってサラッと消える”場合と“削って再塗装コース”になる場合があるのだ。
現場を見ずに即答できない理由はここにある。
消える?消えない? 落書きの化学的事情
実は“落書き”とひと口に言っても、使われたのがクレヨンか油性マジックか水性ペンかで対処法は全く異なる。
油性マジックならアルコールやメラミンスポンジ、場合によっては紙やすりで軽く削る。
水性マジックは中性洗剤や水拭きで落ちることが多い。
クレヨンは油分が多いので歯ブラシ+水拭きが効果的。
つまり、現場に行ったら「これは〇〇系だから、この手でいこう」と判断する知識と経験が必要だ。
素材別 難易度ランキング
無垢フローリングは自然素材ゆえに魅力的だが、インクや油分が深くまで入り込むと難易度が急上昇。
前述したが、場合によっては表面を削って再塗装が必要になる。
柔らかい素材ゆえ、傷にも弱いが、水+アイロンでへこみを直せる場合もある。
一方、複合フローリングは表面に硬いコーティングがあり、汚れや軽い傷には強い。
ただし深い傷は補修材での埋め作業が必要だ。
つまり「素材の性格を知って作戦を立てる」が成功の秘訣だ。
落書き種類別!必殺消しテク
- 油性マジック → アルコールで拭き取り、落ちなければメラミンスポンジや紙やすり+オイル仕上げ
- 水性マジック → 水拭きor中性洗剤、落ちにくい場合は薄めた洗剤を使用
- クレヨン → 歯ブラシで優しくこすり、水拭き・乾拭きで仕上げ
- ソース・ケチャップ → すぐ拭き取り、染みたらメラミンスポンジ+オイル
落書きと言っても、実は「何で描かれたか」を突き止めるのが第一歩。間違った方法で擦ると、シミや傷が広がってしまう危険もある。
DIYは必ずテストから!
DIYでやる場合、いきなり本番に挑むのはNG。
必ず目立たない場所で試してから行うのが鉄則だ。
漂白剤など強力な薬品は黄ばみや色抜けの原因になることも。
深い傷や染みは、無理せず専門業者へ依頼した方が結果的に安く済むことも多い。
さらに、火災保険や家財保険が適用されるケースもあるため、作業前に契約内容を確認しておくと安心だ。
まずは現場確認から
電話だけで全て判断するのは危険。
現場で素材・汚れの種類・床の状態を確認し、最適な方法を提案する。
クレヨン事件は“笑い話”で済むことも多いが、やり方を間違えると余計に目立つ床になってしまう。
私たちの仕事は単に汚れを落とすだけでなく、床の美観と寿命を守ること。だからこそ、初動の見極めと段取りが命なのだ。
つづく…