朝、現場に着くと教室いっぱいに積まれた四角いフローリングブロックが出迎えてくれた。
1枚の中に4〜5ピースの木材が組み込まれ、向きを変えて敷き詰めることで市松模様になる優れもの。
持ち上げると手に伝わる木の重みと、無垢フローリングならではの強さを感じる。
今日はこの小さな木の塊たちを、広い床いっぱいに美しく並べていく。
市松模様が現れ始めると、現場全体が一気に作品の舞台になるのが、この工事の醍醐味だ。
歴史あるフローリングブロック
このフローリングブロック、実はかなり古くから存在している。
昭和の時代には「湿式フローリングブロック」という工法が主流で、今のように接着剤を使うのではなく、モルタルの上に直接ブロックを敷いていく方法だった。
そうだな、玄関にタイルを敷いているような工法にも似ている!
現場ではセメントの粉が舞い、独特の粉っぽい匂いが充満。
床一面が、まだ柔らかいモルタルの薄い層で覆われ、その上に金足(かなあし)と呼ばれる金属の爪を付けたブロックを押し込んでいく。
あの頃は大変だった!
湿式施工はまさに体力勝負。
まずは大量のセメントと砂を混ぜ、手作業でモルタルを練る。
スコップが舟形の桶に「ガリガリ」とこすれる音、練り上がった時のヌルッとした重い感触…。
それを均一に広げるのも至難の業だった。
水平を出す感覚は完全に職人の勘任せ。
硬化が始まる前にブロックを並べきらないといけないから、スピードと精度が同時に求められた。
夏休みの思い出
はじめて、この工事を見たのは、小学生の夏休み、教室の新築工事だった。
大人たちが汗を滴らせながらモルタルを敷き、ブロックを置く姿は、まるで舞台上でのパフォーマンス。
モルタルをすくう人、ブロックを運ぶ人、ゴムハンマーで「コン、コン」と叩いて沈める人…全員の動きが無駄なく連携していた。
子ども心に「これが本物の仕事なんだ」と思った瞬間だった。
チームワークの妙
湿式張りはまさに団体戦。
親方が「次いくぞ!」と声をかけると、全員が同時に次のブロックに移る。
誰かが遅れればモルタルが固まり、作業全体が止まってしまう。
だからこそ互いの呼吸を感じ取りながら動く。
ベテランと若手の息の合った作業音が、現場のBGMのようにも感じた。
今は乾式、エポキシ接着剤の時代
時代は変わり、今は乾式ブロック張りが主流。
施工には高性能なエポキシ接着剤を使用。
1:1の2液なので一斗缶に主剤と硬化剤を入れて混ぜ、コテで均一に広げていく。
硬化が早いから塗幅にも気をつけなければいけない、モルタルほど時間に追われないが、それでもピースの方向や間隔には細心の注意が必要。
接着剤独特のツンとする匂いが漂い、現場は昔とは全く違う空気感だ。
今では希少な存在
この市松模様のフローリングブロックは、今や施工する機会が激減した。
住宅や商業施設では、無垢フローリングや複合フローリングが主流だからだ。
だからこそ、こうして張る機会があると「お、珍しいな」と少しテンションが上がる。
時代の変化を感じる
学校の教室はかつて、湿式金足ブロックが当たり前だった。
それがフローリングブロックに変わり、やがて複合フローリングへ。
見た目はスマートで施工も早いが、昔のブロックにはあの重厚感と木の温もりがあった。
時代の流れは便利さをくれるが、同時に味わいも少し奪っていく。
当たり前だった時代から便利な時代へ
昔は現場のどこに行ってもセメントの匂い、モルタルの粉、そして金足ブロックのカチッという音が当たり前だった。
それが今は接着剤とスライド鋸の静かな現場に。
効率は格段に上がったが、あの頃の熱気と汗の匂いを思い出すと、少し寂しい気もする。
いよいよ張り込み開始!
ブロックを一枚ずつ並べ、市松模様を描いていく。
ちょっとでもズレると模様全体が歪むので、定規と目視の二重チェックは欠かせない。
パチンと隙間なくハマった瞬間、指先に伝わる気持ち良い衝撃。
段々と模様が広がり、床が生き物のように表情を変えていく。
市松模様の魅力
完成に近づくにつれ、光の加減で模様が立体的に見えるようになる。
朝の光は優しく、午後の光はくっきりと。
見る時間帯によって違う顔を見せるのが市松模様の面白さだ。
お客様からも「まるで美術館の床みたい」と言われることもあったな。
職業病的なイメージ
ただ、職人の自分には別の見え方もある。
この模様を見るとどうしても昔の学校の教室を思い出してしまう。
木の擦れた匂い、チョークの粉、昼休みのざわめき。
夏休みのあの現場!
フローリングブロックの市松模様は、俺にとっては昔を思い出すトリガーでもある。
住宅なら着色が映える
一般住宅で使う場合は、ナチュラル色よりも着色タイプが断然映える。
ダークブラウンにすれば重厚感、グレーならモダン。
市松模様が空間の主役になる。
木目の向きが交互に変わるから、光の反射も複雑で高級感が出る。
完成!また明日に続く
最後の一枚をはめ込み、全体を見渡す。
まるで巨大な将棋盤のような、美しい市松模様が床いっぱいに広がった。
お客様も「うわぁ…これはすごい」と感嘆の声。
工具を片付けながら、次の現場でもまたこの模様に出会えることを密かに願った。