「やっちゃった…!」椅子の下に潜む静かな犯人
「ゴロゴロ…ガリッ」
——その音、聞き逃してませんか?
現場に呼ばれたのは退去前のワンルーム。
入居者のKさんが神妙な顔で「イスの下、ちょっと見てほしいんです」と言う。
覗いてみると、そこには無数の傷が!しかも、キャスターの通り道だけ光の筋のようにえぐれている。
Kさん曰く「テレワークで椅子の上にいる時間が長くて…」。うん、犯人はおそらくこのコロコロ。
フローリングにとってキャスターは、見た目以上に“静かな破壊者”なのだ。
人は便利さの裏で、少しずつ床に罪を重ねている——そんな現場だった。
「これは誰の責任!?」経年劣化と特別損耗の分かれ道
Kさんの第一声は「これって、弁償ですか?」。
はい、ここからが“退去費用あるある”の本番だ。
傷の責任は、国土交通省の「原状回復ガイドライン」で判断される。ポイントは“通常損耗”か“特別損耗”か。
家具の跡や日焼けは経年劣化、つまり貸主(オーナー)負担。
だが、キャスターによる深いえぐれ傷は“過失”と見なされ、借主の負担になるケースが多い。
現場で私は、光を当てて傷をチェック。「浅い線キズ程度なら大丈夫ですが…これは結構深いですね」。
Kさん、顔面蒼白。だけど、焦らなくていい。まだ“救済ルート”はあるのだ。
「傷の正体を暴け!」キャスター被害の見極めポイント
キャスター傷にも“個性”がある。
浅いスリキズなら、通常使用の範囲。
しかし、円を描くような溝、深く抉れたえぐれ、光が乱反射する広範囲の傷跡——これらは「やりすぎキャスター」。
実際に現場でライトを当てると、キャスターの通ったラインがまるでレーサーの走行跡のように浮かび上がる。
「これ、まるで鈴鹿サーキットですね」と言うと、Kさんが苦笑。「たしかに在宅勤務中、ずっと同じ位置で回ってました…」。
そう、知らぬ間に“イスレーサー”になっていたのだ。
傷の深さと範囲で、借主負担か貸主負担か——床職人の目は、今日も真実を見抜く。
「証拠はスマホの中に!」契約と写真があなたを救う
退去時の“勝敗”を分けるのは、契約書と写真。
入居時に撮ったフローリングの写真があれば、それが“免罪証拠”になる。
Kさんの場合、幸いスマホの中に入居初日の写真が残っていた。
ズームしてみると、同じ箇所にうっすら線キズが。「あっ、最初からありましたね」と私。
管理会社の担当者も写真を見て納得、「これは経年の傷ですね」。
現場が一気に和やかムードに。
契約書の特約にも“通常使用によるキズは貸主負担”と明記されていたため、Kさんの肩の力が抜けた瞬間だった。
そう、現場で最も強いのは“記録”。スマホの1枚が、数万円を救うことだってあるのだ。
「防げたはずの悲劇!」キャスター対策で床を守れ
Kさんのようなケース、実は少なくない。
でも、ほんのひと工夫で防げるのだ。
たとえば、キャスターの下に透明マットを敷く。たった数千円でフローリングを守る防御壁が完成する。
また、椅子の脚にフェルトやラバーキャップを付けるのも効果的。
「え、そんな簡単でいいんですか?」と驚く人も多いが、これが意外と侮れない。
実際、職人の目から見ても“保護フェルトのある家は傷が少ない”。
床は、日々の小さな気づかいで守られているのだ。
Kさんも帰り際、「次の家ではマット買います!」と力強く宣言していた。うん、それが正解。
「DIY補修で逆効果!?」退去前の焦りは禁物
「自分で直せば安く済むかも」と思って、市販の補修ペンでゴシゴシ…。
でも、それが落とし穴。
傷の色と合わない補修は、かえって“目立つシミ”になることがある。下手に手を出すと、修繕費が倍増するケースも。
職人として言いたいのは、「直す前に相談を」。
小さな傷なら簡単に補修できるが、深いえぐれは専用パテや塗装が必要だ。
Kさんも最初は「マニキュアで隠そうかと思った」と笑っていたが、それを聞いて思わず叫んだ。「それ、余計高くつくやつです!」
焦るより、相談。これが退去前の鉄則だ。
「キャスター傷が教えてくれたこと」職人の締めくくり
退去立会いの日、Kさんの部屋はピカピカに磨かれていた。
「この部屋、好きだったんですよ」と言いながら鍵を返すKさん。
床を見下ろすと、あの日の傷も今はきちんと補修され、静かに輝いている。
フローリングは、暮らしの記録そのものだ。
キャスターの跡も、そこに住んだ証。だけど、次の人のために綺麗にしてバトンを渡すのが“大人の引っ越し”。
私たち職人は、そのバトンをつなぐ裏方。今日もまた、誰かの「やっちゃった…」を笑顔に変えるため、トントンと工具を握るのだ。



























