「ダンススタジオをつくりたいけど何から行えばよいか分からない?」時々、こんなご相談を受ける事があります。
実は、テナントにもよりますが、多くの場合には、床のリフォームだけで本格的なダンススタジオをつくることができるんです。みなさん意外と高額になるイメージを持たれているみたいで、概算をお伝えするとビックリされる事があります。
今回の工事は、スタジオの移設に伴いできるだけコストを抑えて仕上げたいとのご相談から、床下地~フローリング・鏡の設置まで、かなりお得に仕上げたダンススタジオの事例になります。
他にも、退去時のよくある失敗例をはじめ、ダンススタジオに適した床下地や床材の事など、注意点もあわせてお伝えしています。これからダンススタジオを検討されている方に、是非とも読んでほしい内容になっています。
◆テナントの床をダンススタジオの床に変更する際に注意しておきたい事とは?
ダンススタジオを経営し社交ダンスや、ラテンダンスなど、様々なダンスを教えているA様。
スタジオをもっと充実させたいとの事で、他の物件への移転を検討されていました。
その約1年後になりますが、ご連絡をいただきスタジオの下地と仕上げまで行うことになりました。
ただ、新しい物件の床は、一般企業向けの内装仕様です。タイルカーペット敷きでダンスに対応できません。ですので、今ある床を撤去しながら新しい床を組んでいきます。
ここで注意しておかなければならないのが、退去時の原状回復です。
よくあるのですが、既存の床を何も考えないで無造作にまとめて倉庫などに置いてしまうといった例です。何が何処にあったか分からず、最終的には新しく床材を購入しなければ原状回復できません。復旧するために数十万円余分に掛かってしまう事だってあります。そうならないためにも、できるだけ情報を残しておくことが大切です。
◆ダンスに適した床材を選ぶ必要性。どんな床であれば踊りやすく体への負担を軽減できるのか?
A様は、フロアを新築するにあたり何を優先すべきか悩まれていました。
確かにダンススタジオを運営していくのであれば”床にどんな性能が必要なのか?””ランニングコストは幾ら必要になるなのか?”などを考えておかなければなりません。
そのため、いくつかの質問を投げかけさせていただきました。
利用者はどんな方を想定しているのか?利用者にどんな床を提供したいのか?コンディションにクオリティを求めるのか?ランニングコストは出来るだけ掛けたくないのか?利用者にとって何がよいのか一緒に考えていただきました。
他にも、近隣や階下への音以外で障害になることは無いかを書き出しました。
ダンス競技は足腰や膝などにかかる負担が大きいとされるため、負担を減らす床であること、疲れにくい床であること、踊りやすい床であることが大切です。
また、何より大切なのはダンスしやすい床であることです。
必要な性能としては防滑性(滑り係数)や適度なクッション性、耐久性、耐摩耗性、メンテナンス性などになります。
テナントが2階以上であれば、遮音性や防音性なども兼ね備えていなければなりません。これらのことを踏まえたうえでいくつかの床を提案をすると共に床材サンプルをお出ししました。
最終的に床の下地にはフリーフロア、床の仕上げにはサクラフローリングの現場塗装が採用されることになりました。ここで、なぜダンススタジオに今回の床材が選ばれたのか、お伝えしていきます。その前にどんな床材があるのか解説します。
◆ダンススタジオに使われる床材について
基本的に床の下地となる材料には、フリーフロアやマットがあります。
また、仕上げ材にはリノリウムやフローリングがあります。
どれも人気なのですが、踏んだ時の感触や、滑り具合、グリップ力、クッション性など性能が違います。
ダンスには、社交ダンス、ブレイクダンス、ヒップホップ、ジャズダンス、ベリーダンス、ラテンダンス、KーPOPダンス、バレエなど多くのジャンルがありますが求められる性能が異なります。フロアについても、公式競技をする床なのか?ダンス教室として使う床なのか?趣味用のダンススペースなのかで床材に対する考え方は変わってくるのです。
また、管理していくうえで求められるのが、耐久性や耐摩耗性、遮音性、メンテナンス性になります。
◆床下地について
床の下地には根太や大引などで構成される組床、床束とボード、そしてコンパネなどを使ったフリーフロア、そしてスラブに直接引く遮音マットなどがあります。
●フリーフロア
フリーフロアとは床束とパネルで構成される組床の一種で、スラブのレベルが悪くても高さ調整ボルトによって仕上げ天端の水平精度を出すことができる床下地です。
施工性に優れ工期短縮を実現する他、遮音性や保温性、クッション性など、床に快適さにも貢献します。
●遮音マット
クッション性のある床材を既存床の上に設置していく工法です。適度な衝撃吸収性と遮音性などを兼ね備えた下地で、その性能は厚さや柔らかさによって調節されています。基材はゴム製のものが多く防音下地としても使用されています。
◆床仕上げについて
ダンスフロアの仕上げはリノリウムやフローリングがあります。
足触りやグリップについてですが、基本的には床材の種類や表面の加工方法によって変わってきます。クッション性や遮音性については仕上げ材で付加することもできますが、それほど高い性能を発揮できるわけではありません。床に求める柔らかさや遮音性は、目的とするダンスやテナントの条件で違いますが、下地で受けるか仕上げで受けるか、その両方で受けるか検討します。
●リノリウム
リノリウムは、商業施設や公共施設一般住宅の内装としても使われている床材です。また家具の仕上げ材としても使われています。
一見、ビニル系床材のような化学床にも見えますが、実は天然素材で作られている床材です。アマニ油を主な原料として、石灰岩、松ヤニ、木粉、コルク粉、ロジン、天然顔料などを混ぜて圧着した仕上げ材になります。ここでは詳しく書きませんが、リノリウムと呼ばれるものの中にはビニル系床材もあるため、注意が必要です。製品にリノリウム調やリノリウム柄といった記載があればビニル系床材である可能性が高いです。
●フローリング
古くから、ダンスの床として使われてきたのがフローリングです。それだけダンスに適しているとも言えます。本格的な味わいのある木の床。床表面材は、なら・さくら・メイプルなど。古くなれば研磨により、既存床がさらに新しく。嗜好のあるスタジオ施工に最適です。
サクラ材は、狂いが少なく程よい堅さや粘り気があり、強いといった特徴を持っています。そして柔らかすぎない適度な弾力性がダンスに最適で踊りやすいということから、昔からプロダンサーに定評のある床材なのです。
さらに、色調がピンク系で明るいイメージも人気の理由のひとつといえるでしょう。
ちなみに、サクラと呼ばれている床材の多くがカバ(樺)のことで、木材業界ではカバザクラや単にサクラなどと呼ばれています。これは私たちが知る桜の木(山桜)とは全く別のもので、木目の美しさはサクラに劣りますが、表面の仕上げや色調がよく似ています(国産の正真正銘のサクラ材は希少で高価)。
◆ダンススタジオ施工事例
まずは、下地の施工を行っていきます。下地はパーティクルボードと支持脚で構成される置床になります。既存のタイルカーペットを剥いで下地を調整しつつ並べていきます。この置床、つくり自体は簡単に見えますが、学校や病院、商業施設や役所の床などにも使われることが多く、それほど強度と施工性に優れているんです。
壁際は、踏んでも沈まないように際根太を回し仕上げていきます。
水平になるように調整も行っていきます。水平の調整にはレーザーレベルを使います。
レーザーレベルとは、本体からレーザー光線を出して水平を測る機械で、下の写真にある三脚の上の白いのがそうです。
捨て貼りまで完了した後、仕上げとなるフローリングを貼っていきます。使う樹種はサクラになります。
フローリングを全て貼り終えた後に入り口や扉回りなどについても施工していきます。
基本的には床を上げるため、段差ができますので、そこの納まりはどうするのか打ち合わせしておく必要があります。框やスロープ仕上げなどがありますが、今回は框を取り付けました。貼ったフローリングが無垢材の無塗装品なのでフロアサンディングを行いコーティング剤を塗布して仕上げます。
下塗りした後に、毛羽などを取り除き再度コーティングを塗布します。
これを繰り返し仕上げていきます。
ダンススタジオのフロアの完成です。透明感のある綺麗な仕上がりになりました。
これから、この場で皆さんがダンス競技をするわけですが、たぶん、そこには、日々のいろんな出来事があるのでしょう。私たちが手掛けた床で、選手が育っていくことや競技が上手くなることは、私たちにとっても掛け替えのない事なんです。床やとして価値が、そこにあるからです。Aさまダンススタジオの床工事などのご依頼ありがとうございました。