体育館に使われる床材の選定と改修方法とは?長寿命化のためのポイント

   

体育館の床が古くなってきて心配だけど、どう手を付ければいいのか悩んでいませんか?
同じような状況の学校や施設も少なくありません。
ただ、体育館の床材選びや改修のタイミングって、多いようで少ないので難しいもの。
第2体育館や学校の統合が進んでいた、体育館の建設ラッシュは過ぎ、今となれば時の経過と共にフローリングや鋼製下地が傷んできているケースも見受けられます。
安全面や予算のことで頭を抱える担当者の方は多いでしょう。
実は、体育館の床材にはいくつか種類があり、それぞれ特徴や適した用途、メンテナンス方法が異なります。
本記事では、体育館の床材の種類と特徴、改修時の選定ポイント、そして長寿命化のための注意点について、専門的な内容をできるだけかみ砕いて解説します。
体育館の改修や長寿命化をご検討中の皆様の参考になれば幸いです。
それでは、体育館の床材選びのポイントを順番に見ていきましょう。

体育館で使われる床材の種類

体育館の床材には、大きく分けて以下の三種類があります。
それぞれ素材や構造が異なり、長所・短所があります。
ここでは木製フローリング、長尺シート(ビニル系床材)、塗り床の3つについて、特徴・向いている用途・施工方法(工法)・商品例などを紹介します。

木製フローリング

木製フローリングは、古くから体育館で主流の床材です。
天然木(カバ、ナラ)の板を用いた床で、適度な弾力と温かみのある踏み心地が特徴です。
多くの学校体育館や競技施設で採用されており、バスケットボールやバレーボールの公式大会でも使用される伝統的な床材です。
木材ならではの優れたボール反発性(ボールの跳ね返りの良さ)もあり、競技者にとってプレーしやすい環境を提供します。

施工方法

施工方法としては、木製床材を支える下地構造が重要です。
一般的に体育館の床はコンクリートの上に鋼製の床フレームを組む工法と、支持脚とパーティクルボードで下地をつくる工法があり、どちらも、その上に合板とフローリング板を張る「二重床構造」となっています。
下地にゴムパッドやクッション材を挟み込み、衝撃吸収性(弾力性)を高める工夫もされます。
また表面にはウレタン樹脂塗装を施し、摩耗や滑りを適度に抑える仕上げとなっています。
木製床材の商品例としては、北米産メープル材を使った競技用フローリングや、国内メーカーのスポーツ用フローリング材(例:体育館用フローリングなど)があります。

特徴と用途

木製フローリングの最大の魅力は、自然素材ならではの風合いと高い競技性能です。
バスケやバレーなど激しく動くスポーツにも耐える強度があり、適切に管理された床は長期間にわたり使用できます。
ただし水に弱い性質があるため、湿気や水濡れによる変形・劣化には注意が必要です。
また、安全面では経年とともに板表面にささくれ(小さな裂けやトゲ状のささくれ)が発生することがあります。
実際、床板のささくれが剥がれて選手の体に刺さり大ケガに至ったという事故も報告されており、文部科学省から注意喚起も出ています。
このような事故を防ぐためにも、定期的な表面研磨や再塗装によるメンテナンスが欠かせません。
日常の清掃でもワックスがけは基本的に行わず、から拭きや専用クリーナーで対応します(競技用床はワックス禁止のケースが多く、滑りすぎやグリップ低下を防ぐためです)。
メンテナンスに手間はかかりますが、適切に手入れすれば20~30年以上使い続けられる耐久性があります。
ただ、フローリング1枚から張り替えられたり、床点検口を取り付け床下に潜れる事が多いため下地の修理などもしやすいため、より長く持たせることができる床材と言えます。

留意点

木製フローリングは、公式競技志向の体育館や学校体育館に向いています。
伝統的な見た目と高性能から、「やっぱり体育館は木の床でないと」という根強い支持もあります。
ただし、工期も塗装やライン引き作業を含めると比較的長くなります。
下地から合わせ1カ月程度要することも。
予算とスケジュールに余裕があり、本格的なスポーツ環境を整えたい場合に最適な選択肢と言えるでしょう。

長尺シート(ビニル系床材)

長尺シートとは、塩化ビニール樹脂(塩ビ)製のシート状床材のことです。
ロール状の長いシートを必要寸法にカットし、下地に接着剤で貼り付けて施工します。
その名の通り継ぎ目が少なく広い面積を一気に仕上げられるのが特徴です。
最近では体育館向けにクッション性や滑りにくさを高めたスポーツ用長尺シートが開発され、全国的に採用例が増えてきています。

特徴と用途

ビニル系床材は弾力性・グリップ性に優れ、転倒時の衝撃を和らげたり素足や靴底が滑りにくい特性を持ちます。
構造的にはシート自体が多層構造になっており、表面に耐久性の高い層、内部に発泡クッション層が設けられている製品が一般的です。
このクッション層によって、木製床材に負けない衝撃吸収性を実現しているものもあります。
また、素材が耐水性のプラスチックであるため水拭き清掃が可能で、汚れても比較的簡単に掃除できます。
また、優れた安全性と競技性能から、国際的なスポーツ大会でも採用実績があり、子供からトップアスリートまで安心して使える床材として注目されています。

施工方法

下地(コンクリートや合板下地)の上に接着剤を塗布し、シートを隙間なく貼り付けていく工法です。
継ぎ目部分は専用の溶接棒(樹脂棒)を用いてシーム溶接し、一体化させることでゴミや水が隙間に入りにくくします。
ライン塗装も表面に直接施工可能で、競技コートのラインを引いて完成となります。
比較的短工期で施工できるのも利点で、広さにもよりますが夏休みなど短い改修期間でも対応しやすいです。

代表的な製品例として、東リ社の「アリーナフィット」や、ABC商会の「レイジャー4.0」・「レックスコート」などがあります。例えば「レックスコート」はボール反発性と衝撃吸収性をあわせ持つシート床材で、スポーツ施設や児童施設に適していると紹介されています。
厚さが4~6mm程度のものが多く、色やデザインも単色から木目調まで様々なので、体育館の雰囲気に合わせて選ぶことができます。

長尺シートは多目的に利用される体育館に向いています。
学校の体育館では体育の授業だけでなく式典や地域行事にも使われますが、ビニルシート床なら机や椅子を出す際も傷が付きにくく扱いやすいでしょう。
また、災害時に体育館が避難所となるケースでは、大勢の人が土足で出入りしたり寝泊まりしたりしますが、ビニル床材は水や汚れに強いため衛生管理面でも安心です。
最近では「防災拠点として体育館を整備するなら木よりシートが安心」との声もあり、実際に傷んだ木製床を長尺シートへ張り替える改修が増えてきています。
初期コストも木製より抑えめで、限られた予算で改修したい場合にも有力な選択肢です。

留意点

ただし留意点として、長尺シートは鋭利なもので切り裂かれたり、重い機材を引きずると表面に傷が付く可能性があります。
部分的に破れた場合はその部分だけ張り替えることもできますが、新旧で色味が違うこともあるため、美観維持には注意が必要です。
また、耐用年数は10~20年程度とされ、長く使ううちに弾力が失われたり表面が摩耗して滑りやすくなることもあります。その際は再度上貼りするか全面張替えによる更新が必要です。
ただ、時の経過と共に浮きが発生し改修するケースもあります。その場合には、同じ床材を使う必要がありコスト面でデメリットが生じることも。

塗り床(ウレタン樹脂系)

塗り床とは、合成樹脂を現場で流し敷き(塗り付け)して仕上げる床材のことです。
体育館向けには主にウレタン樹脂系の材料が用いられます。
液状またはペースト状のウレタン樹脂に硬化剤を加えて床に均一に塗り広げ、化学反応で硬化させて一体の床面を形成します。
下地にゴムチップ(細かく砕いたゴム粒)シートやマットを敷き、その上からウレタンを複数回に分けて流し込む施工法が一般的で、この構造によって高い弾力性と衝撃吸収性を持たせることができます。
要するに、やわらかいゴム層の上に弾性樹脂層というサンドイッチ構造で、クッションフロアのような弾力のある仕上がりとなる床材です。

特徴と用途

国内体育館としての事例は3種の床材で最も少ないです。
塗り床の最大の特徴は継ぎ目のないシームレスな床面です。
液体を固めて作るため、広いアリーナでも完全に段差や目地の無いフラットな床が実現できます。
これにより清掃性が高く、ホコリや汚れが目地に溜まる心配もほとんどありません。
またウレタン特有の弾性で、跳ね心地はややソフトになります。
転倒時のダメージ軽減や、長時間の運動でも足腰への負担を和らげる効果が期待できます。
滑り抵抗も表面仕上げの工夫で調整でき、適度にグリップの効いた安全な床面に仕上げられます。
最近の製品は色のバリエーションも豊富で、床全体を好みの色で塗装できるため、明るい雰囲気の体育館にしたいときにも向いています。

施工方法

施工方法は専門の職人による現場塗り施工となり、乾燥・硬化にある程度の時間が必要です(層にもよりますが、施工から使用開始まで数日~1週間程度の養生期間を見ておきます)。
代表的な商品例として、ABC商会の「スペースソフトコート」があります。
これは「ゴムチップ層にウレタン樹脂を重ねた弾力性に優れた塗り床材」と紹介されており、体育館やスタジオ向けに採用されています。
この他、海外製のスポーツ用ウレタン床材(例:ドイツ製のPulasticなど)も国内の体育施設で使われ始めています。

塗り床は、用途に応じた調整が比較的自由にできる点も魅力です。
例えばクッション性を高めたい場合はゴムチップ層を厚くしたり、逆に硬めの仕上がりにしたい場合はウレタン層を薄くするなど設計次第で性能を調節できます。
そのため、幼児向け室内遊戯室からプロのトレーニング施設まで、目的に沿った弾性床を実現できます。
一般の体育館でも、地域のレクリエーション中心であれば足腰に優しい柔らかめの塗り床にする、といった選択も考えられます。

留意点

塗り床は材料が液体ゆえに、施工環境の影響を受けやすい面があります。
湿度や温度管理、下地コンクリートの含水率チェックなどを適切に行わないと、剥がれやひび割れの原因となります。
また一旦床全面が連続しているため、部分的な補修の際は新たに樹脂を流しても境目がわずかに目立つことがあります(大きな損傷時にはそのエリアを一度削り取り再施工する形になります)。
耐用年数は10~15年程度が目安ですが、表面の塗膜(ラインなど含む)は消耗に応じて再塗装することで機能を維持できます。
初期コストは長尺シートと同程度かやや高めです。
工期は乾燥時間を要するため中程度で、学校の長期休暇を利用しての改修であれば十分施工可能です。

塗り床は新築時はもちろん、既存床を撤去してコンクリート下地から仕上げ直す大規模改修時にも採用されています。
特に下地の凹凸や段差を樹脂でならしながら施工できるため、下地調整が難しい改修現場で威力を発揮します。
一方で、木床やシートと比べると国内の採用例はまだ多くないため、実績や風合いのイメージが掴みにくいかもしれません。
ですが、継ぎ目のない美しさやメンテナンスのしやすさは魅力的です。

床材の違いを比較してみよう

上記のように、木製・長尺シート・塗り床それぞれ特徴が異なります。
それでは、主要な項目について各床材を簡単に比較してみましょう。
以下の表に素材、クッション性(衝撃吸収の度合い)、滑りにくさ(グリップ性)、用途例、耐用年数(目安)、メンテナンス性をまとめました。

床材種類 素材 クッション性 (衝撃吸収) 滑りにくさ (グリップ) 主な用途例 耐用年数(目安) メンテナンス性
木製フローリング 天然木(広葉樹フローリング) ○(下地構造で調整) ○(表面塗装で調整可) 学校体育館、競技志向のアリーナ 約20~30年※ 定期研磨・再塗装が必要(日常清掃は乾拭き)
長尺シート 塩ビシート+発泡層等 ○~◎(製品により高い) ◎(滑りにくい表面仕上げ) 多目的体育館、学校・地域施設全般 約10~20年 日常清掃容易(モップ掛け、水拭き可)、破損時部分補修可
塗り床(ウレタン) ウレタン樹脂+ゴムチップ層等 ◎(弾力調整可能) ○~◎(仕上げ方法で調整可) トレーニング室、地域体育館、室内競技場 約10~15年 再塗装で延命可、日常清掃容易(継ぎ目なし)

※木製フローリングは適切な維持管理(定期的な再塗装・補修)により寿命を延ばすことが可能です。

上の比較からも分かるように、木製は高い競技性能を長期間維持できる反面、メンテナンスが必要です。
長尺シートは総合的なバランスが良く、近年評価が高まっている床材です。
ただ、メンテナンスしても継ぎはぎになってしまい美観は張り替えないと回復が難しいと言えます。
塗り床はニッチですが独自のメリットがあり、用途次第では有力候補となります。
それでは、具体的に改修で床材を選ぶ際、どのようなポイントに着目すればよいのでしょうか。
次の章で、改修計画時の床材選定ポイントを整理してみましょう。

改修時の床材選定ポイント

体育館の床材を改修する際には、単に新しい材料に張り替えるだけでなく、体育館の使い方や条件に合った床材を選ぶことが大切です。
ここでは、検討すべき主要なポイントを挙げ、それぞれ分かりやすく解説します。

利用するスポーツ種目・用途を考慮する

まず最優先に考えたいのは、その体育館で主に行われるスポーツやイベントの種類です。
競技スポーツ中心なのか、学校行事や地域イベントなど多目的利用が多いのかによって、適する床材は変わります。

競技スポーツ重視の場合: バスケットボールの公式戦やバレーボールの大会などを開催する場合、選手のプレー環境として高い反発性と適度な滑りが求められます。国際基準を意識するなら木製フローリングが選ばれることが多いですが、高品質なスポーツ用長尺シートも選択肢になります(実際、バレーボールやハンドボールではシート系床材の国際大会採用例もあります)。床材選定時には対応競技の公式規格(例えばバスケットゴールの固定方法やラインの寸法など)にも合致するか確認しましょう。木製床は床下にポール固定用の金具を設置しやすい利点がありますが、長尺シートや塗り床でも床金具を埋設する工法があります。

学校行事や地域利用が多い場合

入学式・卒業式など式典会場や、地域の集会所・避難所として使われる機会が多い体育館では、多目的対応力が重要です。椅子や机を頻繁に出し入れするなら、傷が付きにくく掃除しやすい長尺シートや塗り床が有利です。とくに避難所利用を考えると、床に直接大勢の人が座ったり寝たりする可能性がありますから、冷たさを感じにくくクッション性のある床が望ましいでしょう。塩ビシート系の床材は防災拠点として安心・安全に使えるとの評価もあり、水濡れや泥汚れにも強いので災害時にも心強いです。一方で伝統的な木の質感を地域の方が好むケースもあるため、用途と利用者のニーズのバランスを考慮します。

武道や特殊用途: 体育館によっては剣道・柔道など武道の稽古に使ったり、ダンスや卓球専門で使ったりと特殊な用途もあります。柔道場は畳敷きになるので別ですが、剣道では床の耐久性(竹刀が当たる衝撃に耐える等)が重視されますし、ダンス用途では適度なしなやかさがある木床が好まれる傾向があります。卓球のみで使う小規模施設なら塗り床で色を変えて雰囲気を出すのも良いでしょう。このように種目特有の要件も踏まえ、必要に応じて専門の競技団体のガイドラインなども参考にします。

既存の床構造・下地を確認する

改修工事では、現在の体育館の床構造や下地の状態を把握することも重要です。
どんな床材に貼り替えるかによって、施工方法や下地処理の内容が変わってきます。

下地コンクリートの有無

古い体育館では、床下が地面に近く湿気対策が不十分な場合もあります。
既存が木製床の場合、床下に地面があるなら防湿シート敷設や換気措置を検討しましょう。
下地コンクリートがある場合でも、ひび割れや不陸(デコボコ)がないかチェックが必要です。
塗り床を採用するなら下地コンクリートの平滑性が仕上がりに影響するので、十分な下地調整が求められます。

既存床材の撤去・再利用

現在が木製フローリングの場合、既存下地を活かせるかを検討します。
例えば下地の鋼製床や大引・根太が健全であれば、既存の床の上から新しいフローリングを張ることもあります。
一方、長尺シートに変更する場合はフローリングを全て撤去して合板下地を新設するかになります。
重ね張りは工期短縮や廃材削減のメリットがありますが、床の高さが上がるので出入口の段差調整などが必要です。

床下地の補修

床材を替える前に、下地や構造がどれくらい劣化しているか確認しましょう。
長年使用した体育館では、床下地が支持部材にサビが生じてたり、変形していることがあります。
それらを放置すると新しい床材にも悪影響を及ぼす可能性があります。
改修時には下地を検査し、必要に応じて補強・補修することが長寿命化につながります。
特に床金具(バレー・バドミントンのポール差込口など)周辺は荷重が集中しやすいため、下地に補強を入れるなどの対策を検討します。

段差や納まりの検討

床材を変更すると厚みが変わり、入り口やステージとの段差が生じる場合があります。
例えば木製床(厚さ合計60mm程度)から長尺シート直貼り仕上げ(厚さ5mm程度)に変えると床面が低くなりすぎます。
この場合、下地調整で高さをかさ上げするか、見切り材を用いて安全に段差処理を行います。
各出入口の敷居部分や廊下との接続部分など、細かな納まりも忘れず確認しましょう。

予算とライフサイクルコストを考える

床材の選定には予算も大きく影響します。初期施工費用だけでなく、長期的なメンテナンス費用も含めたライフサイクルコストで考えることが重要です。

初期コストの目安

一般的に、木製フローリングは材料費・工事費ともに高額になりやすいです。
良質な木材と専門的な施工(大工工事+塗装工事)が必要なためですが、そのぶん資産価値の高い仕上がりになります。
長尺シートは材料自体は安価ですが、下地処理や接着剤施工の手間があり、広い面積ではそれなりの費用になります。
ただ木よりは低コストで済むことが多いです。
塗り床は材料費が中程度ですが施工に手間がかかり、こちらも費用感は中くらいです。
概算では、木製を100とした場合、長尺シートは60~80、塗り床は70~90程度の予算感になることが多いでしょう(仕様に大きく左右されます)。

維持管理費用

木製床は定期補修費用が発生します。
例えば5~10年ごとに表面を研磨してウレタン再塗装を行う場合、その都度まとまった費用が必要です。
一方、長尺シートや塗り床は日常清掃中心で、定期的な再施工は基本不要です。
ただし経年劣化で張替え時期が来た際には、一気に交換費用がかかります。
例えばシート床を15年ごとに全面張替えるコストと、木床を30年使う間に数回補修するコストを比較してみましょう。
ケースバイケースですが、長い目で見ればどちらもトータルコストは同程度になる場合もあります。
ライフサイクル全体で判断することが大切です。

予算に応じた優先順位

予算が限られる場合は、「絶対に譲れないポイントは何か」を明確にします。
例えば「安全性(弾力)を最優先するのであれば塗り床でもよい」「競技大会誘致が目標なので多少高くても木製にする」など方針を決めると選択が絞りやすくなります。
また、部分改修も選択肢です。
傷みの激しい部分だけ補修して数年後に全面改修するなど段階的に進める方法もあります。
補助金や交付金を活用できる場合もありますので、財源確保の面からも計画を検討しましょう。

安全性と快適性をチェック

床材は人が直接触れる部分だけに、安全性と快適性は非常に重要です。
以下の点に留意して選びましょう。

衝撃吸収とけが防止

スポーツではジャンプの着地衝撃や転倒時のダメージを床がどれだけ吸収してくれるかが、選手のけが予防につながります。硬すぎる床では膝や腰への負担が大きく、柔らかすぎても走りにくくなります。
国際規格やJIS規格で床の硬さ(衝撃吸収性)が定められており、例えばJIS A 6519では体育館床の弾性性能について試験方法が示されています。
改修時には各床材のG値(衝撃加速度の指標)や衝撃吸収率などのカタログ値を確認し、利用者の年齢層や用途に合ったクッション性を持つものを選びましょう。
一般に、子どもや高齢者が使う場合は柔らかめ(衝撃吸収性高め)が安心で、競技者向けにはやや硬めの方が動きやすいと言われます。

滑りにくさ(グリップ)の調整

床が滑りやすいと転倒事故につながりますが、逆に滑らなすぎても踏ん張った際に足や膝に負荷がかかります。
適度な滑り抵抗があることが理想で、これも床材選定の重要ポイントです。
木製床の場合、表面のウレタン塗装の種類でグリップを利かせます。
長尺シートや塗り床の場合は製品ごとに摩擦係数が設定されていますので、その数値を比較するのもよいでしょう。
例えばバレーボールではスライディングしやすいようやや滑る方が好まれますが、フットサルでは急停止できるグリップ力が求められるなど、競技特性によっても適正範囲があります。
複数種目を行う体育館では中間的な滑りやすさとなる製品を選ぶか、必要に応じて競技前に床面をモップで拭いて調整する運用も組み合わせます。

床の硬さによる快適性

体育館はスポーツ以外にも人が長時間滞在する場になることがあります。
例えば避難所では高齢者が雑魚寝するケースもあります。
その際、コンクリ仕上げのような硬い床だと冷たく疲労感が大きいですが、シートや塗り床である程度軟らかければ底冷えを軽減できます。
木床でも下にマットを敷くなど対応はできます。
また音の問題もあり、ボールバウンド音が響きすぎる床は授業中うるさい、などの声がある場合は少し柔らかめにする配慮も考えられます。
安全で快適な環境づくりのため、利用者目線で床材の性質をチェックしましょう。

工期と施工の制約を考える

学校や公共施設の体育館工事では、限られた工期で完了させる必要があるケースが多いです。
床材によって施工工程や日数も異なります。

施工期間

木製フローリングの場合、既存撤去から下地調整、床板施工、塗装・ライン引き・乾燥まで最低でも数週間は見込む必要があります。
特に塗料乾燥やライン塗装の工程は天候(湿度)によっても左右されます。
長尺シートのみの場合には接着剤の乾燥時間はありますが、比較的短期間での施工が可能です。
大規模体育館でも1~2週間程度で張り替えが完了する場合があります。
塗り床は層を重ねる工程があるため、中規模体育館で2週間前後、規模によってはもう少しかかることもあります。
学校の夏休み・冬休み期間や、使用予定が少ない時期を見計らってスケジュールを組みましょう。

騒音・臭気等の問題

工事中の騒音や臭いも考慮が必要です。
木製床の張替えでは解体や切断作業で大きな音が出ますし、ウレタン塗装時には多少の溶剤臭があります。
長尺シートも接着剤に溶剤系を使う場合は臭気があります。
ウレタン塗り床は硬化中に独特の匂いがあります。
周辺環境への影響や、学校なら生徒のいる校舎内に臭いが流れないかなど気を配ります。
最近では低臭タイプの接着剤や塗料も出ていますので、必要に応じて指定するとよいでしょう。

施工性と職人確保

床材によって施工できる業者や職人さんの専門性も異なります。
木床なら床工事業者、シートなら内装仕上業者、塗り床は防水や塗床専門業者が担当します。
それぞれ熟練の技能が必要であり、工期内にしっかり施工してもらえる信頼できる業者選定も大切です。
特に塗り床は扱える業者が限られることがあるので、計画段階で施工体制を確認しておきましょう。
工期に余裕がない場合、並行作業や増員で乗り切れるかも検討ポイントです(例:シートとライン引きを別チームで同時進行する、など)。

以上のポイントを総合的に踏まえて、自館の条件に合致する床材を絞り込んでいきます。
どれも一長一短がありますから、「優先事項は何か」「将来像(今後どのように体育館を使っていきたいか)」を関係者で話し合いながら決めていくと良いでしょう。

長寿命化のための注意点と見落としがちなポイント

体育館の床は一度改修したらできるだけ長く良好な状態を保ちたいものです。
そこで、改修時および改修後の長寿命化のコツや、意外と見落とされやすいポイントを補足します。

適切な日常清掃と定期点検

床材を長持ちさせる基本は日々の清掃と点検です。
ホコリや砂粒は滑りの原因になるだけでなく、床材表面を少しずつ削って劣化させます。
毎日のモップがけや定期的な掃除機掛けで細かなゴミを除去しましょう。
特に長尺シートや塗り床は水拭きOKなので、汚れがひどい時は中性洗剤を薄めて拭き掃除すると清潔に保てます。
木製床は基本乾拭きですが、汚れ放置は厳禁です。
から拭きで取れない汚れは専用クリーナーで除去します。
また、床の点検も定期的に行いましょう。
木床ならささくれや浮き板がないか、シートなら継ぎ目の剥がれや裂けがないか、塗り床ならひび割れや凹みがないか、隅々までチェックします。
早期発見すれば小規模な補修で済み、大掛かりな修繕を防げます。

湿気・水分対策

床材の大敵は水分です。
雨漏りや結露水が長時間床に残ると、木製床は腐食・変形の原因になりますし、シートや塗り床でも下地との接着に悪影響を及ぼします。
まず、体育館の屋根や窓の防水をきちんと保つことが前提です。
その上で、万一水濡れした場合はすぐに拭き取って乾燥させます。
梅雨時や夏場の湿気が多い季節には、換気扇や送風機を活用して床下や室内の湿度を適度にコントロールしましょう。
もし床下に空間がある構造なら、改修時に床下換気口や調湿材の設置も検討してください。
湿度管理を徹底すれば、床材も下地も長持ちし、カビの発生予防にもなります。

重たい物や鋭利な物の取り扱い

体育館では時にバスケットゴールの支柱、移動観覧席、車両(災害時のフォークリフト等)が乗り入れるなど重量物が床に接する場合があります。
また、椅子や机の脚、演劇用機材など点荷重や鋭利な接触を伴う物もあります。
こうした場合、直接床材に荷重や衝撃をかけない工夫が必要です。
床保護シートやコンパネ板を敷くなどして荷重を分散させましょう。
特に塗り床やシートは一点集中荷重で凹みや破断が起きることがありますし、木床でも表面が凹んでしまうことがあります。
体育館備品として床養生板を数セット用意しておくと安心です。
演劇で舞台装置を組む際や選挙の投票所で机椅子を並べる際にも活躍します。

床金具・周辺部品の点検

バレーボールのポスト差込口や床下アンカー、体育器具を固定する床金具類は、小さな部品ですが安全上きわめて重要です。
改修時には古い金具の錆びや緩みがないか確認し、必要なら新品に交換しましょう。
床材変更に伴い金具の種類が合わなくなる場合も注意です(例:木床用金具をシート床で再利用すると段差ができるなど)。施工後も、定期的にネジの緩みや蓋の破損がないかチェックしてください。
万一金具の蓋が外れて穴が露出すると転倒事故につながります。
予備の蓋や専用工具を保管しておき、異常時にはすぐ対応できるようにしておきましょう。

ラインマーキングと表示

床材自体ではありませんが、競技ラインも時間とともに消耗します。
木床や塗り床では塗装ラインが擦れて薄くなり、シート床ではラインテープが剥がれたりします。
ラインが不明瞭だと競技に支障が出ますので、定期的にラインの再塗装・貼替を行う計画も含めておきます。
改修時にラインを新しく引き直す際は、現行の公式ルールに即したレイアウトに更新する好機です(例えば最近普及してきたフットサルコートの追加など)。
また非常口誘導標識や避難所マーク等、床面表示が必要な場合も、塗料やシートカッティングで耐久的に表示しておくと良いでしょう。

周辺環境との調和

床材だけでなく、壁面・天井との取り合いや音響・照明との兼ね合いも考慮しましょう。
例えば床材の色を明るく変えたら、照明の映り込みが強くなって眩しいというケースもあります。
また、床が柔らかくなりすぎるとボールの跳ね返り音が小さくなり、逆に観客に試合の迫力が伝わりにくくなるといったことも報告されています。
床はあくまで体育館全体の一部ですので、改修後の総合的なパフォーマンスが向上するよう、必要に応じて他の設備とのバランスも調整してください。

以上のような点に注意しつつ適切に運用すれば、新しい床材の性能を長年にわたって維持することができます。
せっかく改修した体育館ですから、計画的なメンテナンスで末長く安全・快適に使い続けましょう。

床下地や金具など周辺部材への目配りも忘れずに

床材そのものだけでなく、それを支える周辺部材にも注目することが、良い改修計画のポイントです。床は総合的なシステムの一部であり、下地や付属部品の状態次第でパフォーマンスが大きく左右されます。

床下地(支持構造)の健全性

前述のとおり、床下地には鋼製の床組(フレーム)やコンクリートスラブ、木製の根太・合板などが使われています。
改修で表面材を更新しても、その下の構造が劣化していては長持ちしません。
特に鋼製床下地の場合、長年の湿気でサビが進行していることがあります。
大きな体育館では床下に人が入れるスペースがある場合もありますので、事前に点検し、錆落としや補強塗装を施すと安心です。木製根太の場合はシロアリ被害や腐朽がないか確認します。
腐った根太は全て交換し、必要に応じて防蟻措置を行いましょう。
床下地を万全に整えることが、新しい床材の性能をフルに発揮させ、寿命をまっとうさせる秘訣です。

防音・防振対策

体育館は下階が無いことが多いですが、もし下に部室や空間がある場合は防音対策も考慮します。
床下地にグラスウールを敷き詰めたり、ゴム支承を入れて振動を減衰させる方法もあります。
床材選定時にクッション性を重視したのは、実は防振・防音にも寄与します。
弾力のある床は衝撃音を吸収しやすいのです。
周辺部材として壁との取り合い部に緩衝材を入れるなど、小さな工夫が騒音低減につながります。

金具・備品類のアップデート

床金具以外にも、体育館には様々な備品が床と関わります。
たとえば折りたたみ式の観客席(スタンド)は床にレールや据付金具があったりします。
古い観客席を更新する際は、新しい床材に対応したレール工事も発生します。
また肋木(ろくぼく:肋骨はしご状の器具)や鉄棒の床埋込金具、クラブ活動で設置するトランポリンの滑り止めなど、細部も点検しましょう。
周辺部材が不調だとせっかく床を直しても使用に支障が出ます。
改修工事では床工事業者以外にも関係する業種(設備や電気、舞台装置など)があるかもしれません。
初期の計画段階で「見落としはないか?」とチームで洗い出し、周辺部材も含めたトータルな改修プランを立てることが成功のカギです。

清掃用具や維持管理ツール

床材を新しくしたら、それに見合った清掃用具やメンテナンス用品も準備しましょう。
例えば木床用にはワックスフリーのポリッシャーやモップが有効ですし、シート床には消毒液対応のモップなどがあると便利です。
床材メーカーが推奨するクリーナーやコーティング剤があれば、導入を検討します。
また、温湿度計を設置して日常的に環境をモニタリングするのもおすすめです。
些細なことですが、こうした維持管理ツールの充実が床材の寿命を左右します。

体育館の床材選びは専門家への相談を

体育館の床材の選定・改修について、主要なポイントを幅広くご紹介しました。
木製フローリング、長尺シート、塗り床それぞれにメリットと課題があり、利用シーンや条件によってベストな選択肢は異なります。
老朽化した体育館の改修ニーズが高まる中、本記事の内容が床材選びのヒントになれば幸いです。

大切なのは、体育館の用途や利用者の視点に立って総合的に判断することです。
その上で、耐久性・安全性を確保しながら予算内で最善の改修プランを描くには、やはり経験豊富な専門家の知恵が欠かせません。
床材メーカーや施工業者は最新の製品情報や施工ノウハウを持っていますし、設計事務所であれば類似施設の事例を踏まえたアドバイスが可能です。

「うちの体育館にはどの床材が合っているのだろう?」「改修したいけど何から手を付ければ…」とお悩みでしたら、ぜひ一度専門家に相談してみてください。
プロの目線で現場を確認すれば、思いもよらない改善策が見つかることもあります。
改修後に「この床にして良かった!」と心から思える体育館づくりを目指して、まずはお気軽にご相談いただければと思います。
専門家と二人三脚で計画を進めることで、きっと安全で長持ちする理想の体育館が実現できるはずです。

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